牛舎

父方の祖父はおよそ30年前まで牛の畜産業を営んでいました。
まわりに何もない山間の中に、ぽつんと建つトタンの銀色の牛舎。
1階には黒くて大きな牛が通路を挟んで何頭も並び、
2階は牧草のストックスペースになっていました。

餌は三種類くらいの草を混ぜていたと思います。
祖父が押す車輪のついた餌箱に小さい私も乗せてもらい、
牛がずらっと並ぶ通路を移動しながら餌を与えた事がありました。

仕切の付いた餌箱から、言われたとおりに牧草を取り出してブレンドし、
「はいあげるよー」「よいしょー」の声に合わせてザザーっと空け、
ちょっと移動してまたブレンドしながら餌をあげて、を繰り返します。

小さい自分にはものすごく大きく感じた牛の黒い体
餌を食べるために柵からひょこっり顔を出し、通路を挟んで並ぶ牛の頭
「も〜」「ふっ」とあちこちから聞こえてくる息遣い
乾燥した牧草と糞の混じった独特のにおい

あの頃の情景は、臨場感を持って今でもはっきりと残っています。

父が昔、他の畜舎に売られて行く牛を車の荷台に載せるのを手伝った時、
その牛はとても嫌がり、そして目から涙を流したそうです。
牛の目がとても綺麗で、泣いているようで胸が締め付けられたと聞きました。

長い時間をかけて大切に育てるわけですから、
家畜は農家の方々にとっては生活の糧であるだけでなく、
私たちが思う以上に強い思い入れがあるものだと思います。

宮崎県の口蹄疫が連日ニュースになっています。
関係者の心労は到底推し量る事はできませんが、
一日も早く病気が治まる事を望みます。

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