Archive for 5月, 2010

牛舎

月曜日, 5月 24th, 2010

父方の祖父はおよそ30年前まで牛の畜産業を営んでいました。
まわりに何もない山間の中に、ぽつんと建つトタンの銀色の牛舎。
1階には黒くて大きな牛が通路を挟んで何頭も並び、
2階は牧草のストックスペースになっていました。

餌は三種類くらいの草を混ぜていたと思います。
祖父が押す車輪のついた餌箱に小さい私も乗せてもらい、
牛がずらっと並ぶ通路を移動しながら餌を与えた事がありました。

仕切の付いた餌箱から、言われたとおりに牧草を取り出してブレンドし、
「はいあげるよー」「よいしょー」の声に合わせてザザーっと空け、
ちょっと移動してまたブレンドしながら餌をあげて、を繰り返します。

小さい自分にはものすごく大きく感じた牛の黒い体
餌を食べるために柵からひょこっり顔を出し、通路を挟んで並ぶ牛の頭
「も〜」「ふっ」とあちこちから聞こえてくる息遣い
乾燥した牧草と糞の混じった独特のにおい

あの頃の情景は、臨場感を持って今でもはっきりと残っています。

父が昔、他の畜舎に売られて行く牛を車の荷台に載せるのを手伝った時、
その牛はとても嫌がり、そして目から涙を流したそうです。
牛の目がとても綺麗で、泣いているようで胸が締め付けられたと聞きました。

長い時間をかけて大切に育てるわけですから、
家畜は農家の方々にとっては生活の糧であるだけでなく、
私たちが思う以上に強い思い入れがあるものだと思います。

宮崎県の口蹄疫が連日ニュースになっています。
関係者の心労は到底推し量る事はできませんが、
一日も早く病気が治まる事を望みます。

日曜日, 5月 9th, 2010

嬉しいことに、今年は福島の三春滝桜の春を訪ねることができました。
滝桜のある三春は城下町で、伊達政宗の正室めご姫の町としても知られます。
町の名前の由来は三つの春が同時にやって来たから、と言われています。

三つとはうめ、もも、そしてさくらです。

現代ではなかなか三つの花が一度に咲く様を見る事はできません。
それでも、点在する桜はどれも見事で、桜めぐりの観光ツアーもあります。

郡山観光交通さんが作っている福島県内の「しだれ桜」番付表です。
春場所。たしかに。

しだれ桜のみで番付表を作る事ができるだけでもすごいのですが、
樹齢800年や400年といった古木が名を連ねます。
今回は4月末の朝早めから動いて、滝桜を含む三春、郡山界隈の桜を訪ねました。

「不動桜」樹齢400年。

不動明王をまつる不動堂の境内にあり、滝桜の子孫と考えられています。
左手には菜の花が満開で、そちらから見ると黄色と桜のコントラストが美しい。
私はこの写真の角度から見た雰囲気が好きです。

「地蔵桜」樹齢400年。

桜の下には地蔵堂があり、この樹も滝桜の子孫と言われています。
不動桜よりも樹形が大きく、腕を広げたような佇まい。
この写真が正面ですが、背後から見ると日差しの関係で空がもっと青く見え
コントラストで桜が際だち、より綺麗に見えました。

「福聚寺の桜」

お寺一帯に美しい桜が咲き誇ります。
背後には山の斜面墓地があり、春はその中を観光客が散策しています。

観光スポットにもなっている斜面墓地の上からの眺めです。
この日も、写真家らしき人達が三脚を使用して撮影していました。
正面奥には立派なしだれ桜が見えます。

・・・お墓ですのでこんな微笑ましい立て札もあります。

「仲森のしだれ桜」樹齢250年。

もう見事の一言。
まわりに何もないのと、地形的にかなり下から見上げる事になるため
圧倒的な存在感を放ちます。
立っているのは民家の庭先で、地元の人がちらほらと訪れていました。

最後に横綱「三春滝桜」。樹齢推定1000〜1200年。
樹齢については、中心が空洞で正確には分からないそうです。

これが一本桜なのですから、本当に驚きます。
全体が丘になっているため、遊歩道をゆっくり上り下りしながら
まったく表情を変える滝桜を楽しみました。

この辺りの桜には、彫刻を見るようなおもしろさがある気がします。
年季の入った一本桜を、まわり歩きながら様々なアングルから眺めると
樹形はもちろん、周囲の地形や風景も変化するため、見ていて飽きません。

どの桜も、違う樹に見えるくらい表情を変えてくれます。
千鳥ヶ淵等のシークエンスとして感じる桜並木とは、また違った魅力と言えます。
本当に良い花見になりました。また来年も楽しみです。